高山正之著 「オバマ大統領は黒人か~変見自在~」(新潮社)より転載
ウイルスを撒き散らした厚生官僚
米国女性の三人に一人は胸に自信がなくて何とかしたいと思っている。
だから60年代にシリコンを胸に埋める方法が開発されると一年間で三十万人が美容整形外科の前に行列を作ったという。
シリコンは二酸化珪素に炭素を加えたものだ。つまり石英と木炭が素。おまけに袋入りだから有害であるはずもない、米連邦食品医薬品局(FDA)も問題なしとした。
ところがやがてシリコンを封入した袋が破れて中身が漏れた。それで周辺組織に変調を起こした、例えば多発性硬化症になったとかいう話が広まった。
噂は噂を呼んで膠原病になった、免疫不全になったから、ついにはガンになったまで様々な症例が出てきた。
弁護士事務所が早速彼女らに食いつき、ダウ・コーニングやバクスター、ブリストル・マイヤーズなどシリコンに関わる大手企業を軒並み製造物責任法(PL法)で訴えた。
実はこの訴訟騒ぎのネタ元は日本だった。日本の豊胸手術はシリコンを袋にも入れず、じかに注入していた。それで様々な神経症やしこりが報告されていた。
米国の弁護士がそれを知って、袋が破れたら大変だ、と不安を煽って訴訟ブームを生んだ、というのがどうも正解らしい。
企業側はシリコンと病気の因果関係を科学的に否定してみたものの、日本の症例がある。陪審員を説得しきれなかった。
94年にはガンで乳房を切除したジュリー・マクマリーら三人が3M社から総額2790万ドルの賠償金を取っている。
集団訴訟を起こされたダウ・コーニングは30億ドル積んでやっと和解に漕ぎつけた。
米国では政府には無答責の原則があり、シリコンを認可したFDAが訴えられることはなかった。
ただ遊んではいなかった。訴訟騒ぎが起きるとFDAはすぐに豊胸にシリコンを使うことを禁じる一方、米医学研究所(IOM)に手術を受けた女性を全米規模で追跡調査させた。
その結果、シリコンとガンなどの間に何の因果関係もないことが分かった。
FDAは昨年、14年ぶりにシリコンを使った美容整形を再認可した。
あの訴訟騒ぎは結局、こすい弁護士が独り大儲けしただけのことだった。
ところでFDAはこのシリコン騒動の前に血液凝固を促すフィブリノーゲンの製剤が肝炎ウイルスを感染させるとして承認の取り消しを行っている。
この頃はB型ウイルスが分かっているだけだったが、後にC型も見つかる。実に見事な判断だった。
このとき、米国には日本のFDAこと厚生省職員が十七人も駐在していたが、誰もそれを知らなかった。英語が分からない上に毎日遊んでいたからだ。
だから日本国内ではウイルスまみれの製剤が治療に使われ続けた。
米国でC型が見つかった頃、厚生省は問題の血液製剤による肝炎発症例を確認したが、それでもこの役所は動かなかった。
この役所が動いたのは二十一世紀になってからだった。疑惑の血液製剤を投与され、肝炎ウイルスに感染した可能性のある患者を製薬会社に報告させた。
総数は480人。FDAならすぐに患者に告知し、患者もPL法で製薬会社を訴え、治療も始めただろう。
しかし厚生省は製薬会社の"犯罪"を確認しただけでせっかくのリストを倉庫に仕舞い込んだ。
それを命じた当時の宮島彰局長は「てっきり病院が対応したと思った」と答えている。もし役人に罪があるとしたら怠慢だけだと。
それは大嘘だ。官僚の思考はすべて「天下り先の確保」にしかない。
例えば防衛省は役所として新参だから天下り先を創出中で、装備品の納入業者に水増し請求させる。その水増し分で天下りを養わせる方式で、守屋次官はそれで捕まった。
道路公団の橋梁談合も同じ趣旨だ。仕事を回して天下りを受け入れさせる。
しかし古手の厚生省には別の技がある。監督対象の業者の不始末だ。
それを脅しのネタにして天下りを強要する。だから患者が死ねばもっと不始末度が上がる。宮島某が証拠を仕舞い込んだ意味がそこにある。薬害が出てこそ役人が潤う。
日本には米国の弁護士以上に性質の悪い輩がいっぱいいる。
(2007年12月27日号)
ウイルスを撒き散らした厚生官僚
米国女性の三人に一人は胸に自信がなくて何とかしたいと思っている。
だから60年代にシリコンを胸に埋める方法が開発されると一年間で三十万人が美容整形外科の前に行列を作ったという。
シリコンは二酸化珪素に炭素を加えたものだ。つまり石英と木炭が素。おまけに袋入りだから有害であるはずもない、米連邦食品医薬品局(FDA)も問題なしとした。
ところがやがてシリコンを封入した袋が破れて中身が漏れた。それで周辺組織に変調を起こした、例えば多発性硬化症になったとかいう話が広まった。
噂は噂を呼んで膠原病になった、免疫不全になったから、ついにはガンになったまで様々な症例が出てきた。
弁護士事務所が早速彼女らに食いつき、ダウ・コーニングやバクスター、ブリストル・マイヤーズなどシリコンに関わる大手企業を軒並み製造物責任法(PL法)で訴えた。
実はこの訴訟騒ぎのネタ元は日本だった。日本の豊胸手術はシリコンを袋にも入れず、じかに注入していた。それで様々な神経症やしこりが報告されていた。
米国の弁護士がそれを知って、袋が破れたら大変だ、と不安を煽って訴訟ブームを生んだ、というのがどうも正解らしい。
企業側はシリコンと病気の因果関係を科学的に否定してみたものの、日本の症例がある。陪審員を説得しきれなかった。
94年にはガンで乳房を切除したジュリー・マクマリーら三人が3M社から総額2790万ドルの賠償金を取っている。
集団訴訟を起こされたダウ・コーニングは30億ドル積んでやっと和解に漕ぎつけた。
米国では政府には無答責の原則があり、シリコンを認可したFDAが訴えられることはなかった。
ただ遊んではいなかった。訴訟騒ぎが起きるとFDAはすぐに豊胸にシリコンを使うことを禁じる一方、米医学研究所(IOM)に手術を受けた女性を全米規模で追跡調査させた。
その結果、シリコンとガンなどの間に何の因果関係もないことが分かった。
FDAは昨年、14年ぶりにシリコンを使った美容整形を再認可した。
あの訴訟騒ぎは結局、こすい弁護士が独り大儲けしただけのことだった。
ところでFDAはこのシリコン騒動の前に血液凝固を促すフィブリノーゲンの製剤が肝炎ウイルスを感染させるとして承認の取り消しを行っている。
この頃はB型ウイルスが分かっているだけだったが、後にC型も見つかる。実に見事な判断だった。
このとき、米国には日本のFDAこと厚生省職員が十七人も駐在していたが、誰もそれを知らなかった。英語が分からない上に毎日遊んでいたからだ。
だから日本国内ではウイルスまみれの製剤が治療に使われ続けた。
米国でC型が見つかった頃、厚生省は問題の血液製剤による肝炎発症例を確認したが、それでもこの役所は動かなかった。
この役所が動いたのは二十一世紀になってからだった。疑惑の血液製剤を投与され、肝炎ウイルスに感染した可能性のある患者を製薬会社に報告させた。
総数は480人。FDAならすぐに患者に告知し、患者もPL法で製薬会社を訴え、治療も始めただろう。
しかし厚生省は製薬会社の"犯罪"を確認しただけでせっかくのリストを倉庫に仕舞い込んだ。
それを命じた当時の宮島彰局長は「てっきり病院が対応したと思った」と答えている。もし役人に罪があるとしたら怠慢だけだと。
それは大嘘だ。官僚の思考はすべて「天下り先の確保」にしかない。
例えば防衛省は役所として新参だから天下り先を創出中で、装備品の納入業者に水増し請求させる。その水増し分で天下りを養わせる方式で、守屋次官はそれで捕まった。
道路公団の橋梁談合も同じ趣旨だ。仕事を回して天下りを受け入れさせる。
しかし古手の厚生省には別の技がある。監督対象の業者の不始末だ。
それを脅しのネタにして天下りを強要する。だから患者が死ねばもっと不始末度が上がる。宮島某が証拠を仕舞い込んだ意味がそこにある。薬害が出てこそ役人が潤う。
日本には米国の弁護士以上に性質の悪い輩がいっぱいいる。
(2007年12月27日号)

